わたくしは夏の盛りのトタン屋根  櫂未知子

俳人の方が読んでいたなら、「季語を何と心得ておる。この一月に、この歌では云々」とお叱りと受けそうだ。
季語はもちろん「夏」であろう

私は、俳句のことはよくわからない。俳句の同人誌のメンバーに入れていただいたり、その同人誌の先輩の俳人の方々に、レクチャーしていただいたのだが、どうもいま一つ飲み込みが悪いようだ。

そんな私ではあるが、櫂未知子の句には強く惹かれる。
掲出句は作者の第一句集「貴族」に収録されたものであるが、

貴族―櫂未知子句集

貴族―櫂未知子句集

古書店にても入手困難な、「幻の句集」となってしまっている。
今回は「セレクション俳人櫂未知子集」よりである
櫂未知子集 (セレクション俳人 (06))

櫂未知子集 (セレクション俳人 (06))

「夏の盛りのトタン屋根」に上ったことのある人は、どれ位いるだろう。それも裸足で
「私は、夏の盛りのトタン屋根のように熱いのだから、触れると火傷をするわよ」と解読する方もいるであろう。
私は、寧ろ火傷をしているのは、作者ではないかと感じたのだ。
欧州の寓話にあったのではなかろうか。秘密の扉の中を覗いてしまった少女が、天罰として焼けた鉄か煉瓦の上で踊り続けねばならぬ物語。
その少女を思い出したのだ。扉向こうは確か「大人の世界の詭弁」ではなかったか。
櫂未知子の句集を貫くのは、泥沼をくぐろうともそれをはじく清浄な肌の「少女性」であると思う。

素裸のこれが私のオリジナル
ひまはりはひまはり自分以外には成れぬ
蛇穴に入る、少年は間違へる
中庸を愛する国の雪あかり
シースルーエレベーター昇る時は金魚
王道は多分このへん日のさかり
ぎりぎりの裸でゐる時も貴族

引くのは、これくらいにしておこう。まだまだ書き足りないので、「俳句」のカテゴリーで、また櫂未知子を取上げることになろう。
私にとって、俳句の原点は櫂未知子なのかもしれない

先に「欧州の寓話」と書いたが、作者の句には日本を離れ欧州の雰囲気が漂う。
それは、英国に長く在住した体験もあろうが、生まれ育った町余市と、高校生時代に通学した小樽市の街並みが影響をしていると思われる。
櫂の通園した「リタ幼稚園」はミッション系であり、創立者は確かニッカウヰスキーの創設者の妻リタではなかっただろうか。
竹鶴政孝が英国留学中に知り合い、連れ帰った愛妻がリタである。
もしも、記憶違いであったならば、ご容赦、ご教示いただきたい。

偶然ではあるが、昨日そして今日と取上げた書籍は、邑書林のものであった。
良心的な本作りを、これからも貫いていただきたい・・・良心的であることが、財政的にはかなりの苦労を伴うことであろうが。