銃口にジャスミンの花無雑作に挿して岩場を歩きゆく君   重信房子

ジャスミンを銃口に―重信房子歌集

ジャスミンを銃口に―重信房子歌集

元(なのだろうか、よくわからない)連合赤軍の女性闘士の重信房子が、2005月に歌集を出版している。
掲出歌は、歌集の表題ともなっているから、代表歌なのだろう。
パレスチナ解放闘争に身を置き、闘いつづけた人であるらしい。
こうして取上げておきながら、「〜らしい」「〜なのだろう」は、無責任かも知れぬが、私はこの歌集をまだ手にしていない。
幻冬社より、1,470円にて販売されている。歌集としては、安い。通常の半額以下であろう。
資料として、一冊購入すべきなのだろうが、どうもその気がおきない。
よく、重信房子永田洋子とが比べられた。
重信房子は、どの写真を見ても、愛くるしく美しい人である。しかし永田洋子は、容貌には恵まれなかった。その差が、片やパレスチナ解放闘争のマドンナとなり、そしてもう一人は内ゲバでの粛清と称した殺人事件の首謀者となった。
そのように、ある年代以上の男性は、分析したがる。
しかし、逮捕された重信房子を画像でみて感じたのは、五十歳もいくつか過ぎたおばさんの、容貌なんぞそれほど大差ないではないではないか、そんな事であった。

団塊から上の世代の、進歩的活動をしている女性たちに、歌を詠んでいることが知れると、必ず名前が出るのが、道浦母都子である

無援の抒情 (岩波現代文庫)

無援の抒情 (岩波現代文庫)

『無援の抒情』が、その世代の女性たちにとって、未だに広く語り継がれている一冊である事を、知らされる。

明日あると信じて来たる屋上に旗となるまでたちつくすべし
ガス弾の匂い残れる黒髪を洗い梳かして君に遭いにゆく
炎あげ地に舞い落ちる赤旗にわが青春の落日を見る

      (道浦母都子『無援の抒情』より)

これらの歌よりも

風の婚

風の婚

今日われは妻を解かれて長月の青しとどなる芝草の上
産むことを知らぬ乳房ぞ吐魯番(トルファン)の絹に包(くる)めばみずみずとせり
水の婚草婚木婚風の婚婚とは女を昏(くら)くするもの

      (道浦母都子『風の婚』より)

こちらの方が好む者達は、「道浦さんもお気の毒に、いつまでも『無援の抒情』を引き摺らされて」と、世間話とするのだ

サウス・バウンド

サウス・バウンド

奥田英朗の『サウス・バウンド』の主人公の両親以下の人間にとって、あれらの闘争は不可解な部分が多かった。
あの不可解さが、『ジャスミン銃口に』の出版の裏にあるものに対して、不信感を抱くのではないだろうか。

「打倒せよ」と叫びし日々はこの国の勢いありて希望ありし頃
すでにもう街には棺はなくなりて布一枚で地に還る友
友のため樹林葬の樹オリーブの苗を捜して戦場駆ける
1本のロウソクのもと肩を組みインター歌いて戦場に赴く
夜桜のしじまの時の激しさよ獄で逝きし人々のこと
インターは一人歌えばなおさらにさびしきものと独房で知

           

もはや「打倒せよ」と叫べるほど、国に勢いは無く、インターナショナルを歌える若者も、いないのだ(2/10)