気になる一首

昼更けのモノレールにて忍び泣きしていし女を夜更けて思う    松岡 晧二

日常生活に使う交通手段の乗り物の中、忍び泣きしている女。 見るともなく、気付くともなく、遣り過してしまう。深夜一人になり、静寂の中、昼間の映像が蘇る。 公共の交通機関の中で「忍び泣き」をする女。 それは都会の中では、よくある情景の一齣である。…

溜池の石斛ほのかに匂うなり伸び立つ布袋葵の陰に        長尾もとね

今日も、古い結社誌から「石斛」を調べたところ、「いわぐすり」と読み〈せっかい〉のことなどと早とちりをしてしまった 一瞬なんのこっちゃと混乱したのだ。 溜池に石灰を撒いて一体どうするのだろうかと 若しや、水を浄化する効果でもあるのだろうか 物知…

自転車に乗りて彼岸の川岸を息子走りているやも知れず  有光智恵子

16日付のの作品も同様であるが、結社誌1月号より此岸と彼岸の間に、川が流れているという話を、私も聞いたことがある。 母親である作者はは此岸におり、 彼岸にいるご子息を思っている。 夭折であったのであろう、自転車に乗り走っているのであるから。 亡く…

新生薑おろせば生薑香にたちて生薑でもなき泪出ずるも  有光智恵子

涙、涕、泪、「なみだ」と読ませる漢字は一つではない。 涕は、鼻からも流れ出る泣き方をした、そのようなときのもの。 涙と泪は表意文字か、表音文字の違いでしかなく、大意は同じと説明にあったが、 涙は流れ出るもので、泪は滲み出てくるように思うのは、…

銃口にジャスミンの花無雑作に挿して岩場を歩きゆく君   重信房子

ジャスミンを銃口に―重信房子歌集作者: 重信房子出版社/メーカー: 幻冬舎発売日: 2005/07メディア: 単行本購入: 1人 クリック: 3回この商品を含むブログ (12件) を見る元(なのだろうか、よくわからない)連合赤軍の女性闘士の重信房子が、2005月に歌集を出…

泥のごとできそこないし豆腐投げ怒れる夜のまだ明けざらん  松下竜一

社会派作家の松下竜一は1968年に歌集『豆腐屋の四季』を自費出版している。 松下竜一の著書は、大杉栄と伊藤野枝の遺児・伊藤ルイズについて書かれた『ルイズ父に貰いし名は』を持っていた。 しかし、氏が歌人として活躍し、歌集が原作となりドラマ化された…

髪の毛がいっぽん口にとびこんだだけで世界はこんなにも嫌  穂村弘

1月10日の日記にての歌と同じ、「短歌」12月号より。 穂村弘の短歌には、なるべく近寄らないように、気を付けているのだ。 近寄ってはいけない、危険だそう感じる。 この感覚、例えば麻薬を前にした感覚とは、違うと思う。 苺や季節のフルーツが沢山飾り付け…

物はみな倒す潰すに打ち壊す家は優しく解くと言えり(ルビ・「解く」:「ほどく」)  西村とし

日本語とは、なんとも優しい言葉ではないか。 万物あらゆるものに神の宿る、その国に生まれたことを、この歌を読み幸いに思った。アメリカの高層ビルディングの爆破による解体を、テレビの画面で観ることがある。あっけ無く、一瞬で崩れ落ちる様を見るにつけ…

明け初むる空に二十日を過ぎし月水銀色に横たわりおり  空 栞

結社誌12月号より夜明の空に、下弦の月であろう、横たわっているという。月が横たわる、そのような表現もあることを、作者より教えられた。 私も、月の歌の少ない方ではないが、このように月をとらえて、詠んだことはまだない。 「水銀色」も効いている。よ…

両の手を伸ばして夢に天降るヤコブの梯子掴まんとせり   澤善彦

結社誌の10月号に掲載された一首澤善彦は、嘗て外国船の船乗りであり、現在は画家として活躍をしている。 やはり晩学の人であり、齢も既に七十歳をいくつか過ぎているはず。 経歴のとおり、博識の人である「ヤコブの梯子」とは、≪雲の切れ間から、光が筋をな…

デジタルの時計を巻きつけてみたい山中智恵子の左手首に  穂村弘

「短歌」12月号に掲載されたこの一首の、「山中智恵子」の固有名詞の必然性の有無について述べられ、それが大きな話題となった その話題の広がりは、思いもかけぬ方向へとも向かった。 しかし流れの速いWebの世界なので、もう話題にはされていない山中智恵子…

笑いつつ怒れる人と言ふべきか日照り雨ひどく降らす青空  今井聡

不思議なおかし味のある歌である 「あっ、いるいるこんな人」と相槌を打つ人も多いのだろう 職場や組織に、一人くらいは居るものだ。このようなタイプの人の下に付くと、苦労する そう一頻り考え納得するのだが その後、気付くのだ。この歌は人事ではなく、…