明け初むる空に二十日を過ぎし月水銀色に横たわりおり  空 栞

結社誌12月号より

夜明の空に、下弦の月であろう、横たわっているという。月が横たわる、そのような表現もあることを、作者より教えられた。
私も、月の歌の少ない方ではないが、このように月をとらえて、詠んだことはまだない。
「水銀色」も効いている。よく体温計を壊してしまい、中の水銀を零してしまった。
その飛び散った水銀を、一箇所に集めるのが好きだった。
とろんとした光沢のある色、それそれを思い出した。
全てがデジタルの時代、「水銀色」のわかる若者は、どれ位いるのだろう。
同じ作者の作品に「娘の古稀の膳に坐りて言葉なし頼ってばかりはもうおられない」もある。
娘が古稀であれば、親もそれなりの年齢であろう。二〇〇五年九月号に「起き出でてしばらく経ちて今日よりは八十九歳無理はやめよう」空栞の歌である。
「無理はやめる」が「頼ってばかりはもうおられない」親子共に老いてゆくのである。
人事ではない、間もなく自分の前にも立ちはだかる、または同じ状態の方も高齢化の時代、多いのであろう。

眠るがに死ぬるというはこの事か覚めてしばらく呆然とおり